今や世界中のトップアスリートが採用する高地トレーニング。しかし高地トレーニングは魔法の杖ではありません。
東京五輪まであと2年と迫った今、日本人か盛んに行っている高地トレーニングを見ると、アメリカやヨーロッパなどで行われている「高地トレーニングの主流」から大きくかけ離れている印象を受け、心配になることがあります。
今回は、あまり取り上げられることの無い高地トレーニングの「デメリット」を正しく理解する事で、より効果のある導入の仕方を考えてみようと思います。
高地トレーニングのデメリット
実際にボルダーやアルバカーキなど高所へ出向く場合のデメリット
- 経済的負担
- 実際に日本代表クラスが高地合宿へ1ヶ月行くと、一人当たりの費用はひと月あたり200万〜400万と言われている。
- 時間的負担
- 高地順応までの時間や、赤血球やヘモグロビンにまでの変化を期待すると最低3週間は必要。
- 時差の問題、リオ五輪前にアメリカ(時差が少ない)で合宿を行うのであれば時差調整も兼ねた合宿になるが、東京五輪前にわざわざ時差のある地で合宿を行うのか。
- 感覚の違いを取り戻す時間
- 例えば球技ではボールの飛ぶ感覚が変わる。競泳では高所の気圧が水の密度に影響し、水を掴む感覚が大幅に変わる。短距離では空気抵抗が変わるなど、その感覚を取り戻す時間は選手により個人差が大きく、数週間かかる選手もいるという報告もある。
- 身体的負担
- 実際に高所に出向く場合は、低酸素の影響だけでなく低気圧の影響も受け、高所順応に時間がかかる(標高2000mの気圧は約0.78気圧)高山病は低酸素の影響より低気圧の影響が大きいともいわれる。
高所に限らず低酸素室なども含めた際のデメリット
- トレーニングクオリティが落ちる
- 酸素の薄い場所でトレーニングをすれば当然苦しい。その為、これまでと同じトレーニングがこなせない、トレーニング強度を落とさなければならないなど、結果的に体力が落ちる可能性がある。
- 効果に個人差が大きい
- 最初に効果が出ても、徐々に効果が出なくなってくる場合がある。
トレーニングクオリティ対策が最も重要
高地トレーニングは特殊環境で行うトレーニングです。絶大な効果も期待できますが、正しくデメリットを理解しないと折角のトレーニングもあまり意味のないものとなってしまいます。
現在、世界の主流はリビングハイ-トレーニングロー(LH-TL : living high – training low )といって、高所で合宿はするけど、トレーニングをする時は下山して標高の低い場所でしっかり身体に負荷をかけて行うという方法です。
一方、日本の陸上長距離陣や競泳陣が最もスタンダードに行っている方法は、リビングハイ-トレーニングハイ(LH-TH : living high – training high )といわれるもので、今年11月に行われた高所トレーニングシンポジウムでは海外から招聘された学者・コーチからは、かなりバッサリ切り捨てられた方法です。
やはり高所ではトレーニングの質が落ちてしまうことが最も大きなデメリット。そのデメリットを克服するために、「寝泊まりだけ高所」で行い「トレーニングはしっかりと酸素の濃い場所で行う」方法が主流となりつつあります。実際、赤血球やヘモグロビンの効果を期待するならそれだけで十分であり、最も良い方法です。
では平塚スポーツケアセンターの「Koach」のようないわゆる低酸素室は、どのように活用するのが一番有効でしょうか。
これはリビングロー-トレーニングロー プラス トレーニングハイ(LL-TL + TH : living low – training low + training high )と言える方法で、普段低地で行っているトレーニングと並行させながら、その補助トレーニングとして行う(多くのスポーツ選手が専門練習と並行して行っているウエイトトレーニングのような存在と考える)のが最も良い活用方法となりますが、その話はまた次回にでも。